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POSTED | 2022.04.20 Wed |
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TAGS | 従業員数:11〜30人 業種:IT・情報通信業 創立:3〜4年 商材:BtoB |
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IT業界を「働き方」で変えていく、アールエンジンの事業・組織戦略
SESエンジニアの新しいワークスタイル「自由正社員」を創り上げる、その未来とはTopics
DXと言われて久しい。現在DXの中心を担っているのはITエンジニアであり、日本のITエンジニアの約7割はSESとも言われている。日本のIT業界の歴史は古く、NTTの情報システム部などが他社の基幹システムを作り始めたことがきっかけで市場が開け、そこからIT業界を下支えするためにSES企業が台頭してきたという。今ではSES企業は東証一部上場企業からベンチャー企業まで幅広く、日本に2万社程度あると言われているが「ブラック」「やめとけ」と揶揄されることも多く、世間からの風当たりは冷たい。
そんなIT業界の中で、業界変革と新たな価値を創り出そうとしている「型破りなSES企業」をご存じだろうか?IT業界に一石を投じるべく、SES領域を軸に幅広い事業を展開しているアールエンジンだ。
2021年9月にスタートした同社は、たった半年で約20名のメンバーを抱えるまでに成長。上場企業を筆頭に盤石な顧客網を構築しながら、従業員への高待遇を維持し、複数事業を展開することで着実に成長している。そのある意味異色な経営に、業界関係者は「今までの業界慣習からかけ離れた新しいタイプのSES企業が生まれている」と驚きを隠せない。
だが今回伝えたいのは、アールエンジンの創業ストーリーや、素晴らしい事業展開、ではない。この企業が「SESの現状とIT業界を根底から変えていくかもしれない」という可能性だ。
他領域に跨った複数事業の体制を確立させようとするなか、同社が最も重視するのは「新しいワークスタイルの確立と、それによるIT業界の変革」だ。
つまりSES業界において、アールエンジンの各事業が浸透していくことによって、従事しているITエンジニアの働き方を改善し、同時に非効率な慣習を変えていくことで、IT業界全体を底上げでより良くしていく。
そのために、単なる事業運営をするだけでなく、「自由正社員」という「組織運営の仕組み」と「働き方の思想」をセットにしたワークスタイルを創り上げることを目的としている。
創業代表の石塚卓也さんにとっては、2度目の起業であるアールエンジン。そこで描く事業戦略と組織運営の現状、そして採用方針とは。今回のインタビューを通じて、アールエンジンという企業の全貌をお伝えしていきたい。
海外生活と1度目の起業で醸成された、働き方の原体験

石塚さんがアールエンジンを創業したのは、2021年9月。創業のきっかけを見ていく前に学生時代まで過去を遡るが、上智大学在籍当時は体育会サッカー部で青春を過ごした。先輩OBは有名な大手企業で働く人が多く、身近な同期や先輩も大手企業を志しており、石塚さんもサッカー部在籍当時は大手企業への就職を考えていたという。
ただ、就職活動に失敗したことがきっかけで世の中をもっと知りたくなった石塚さんは、グローバル教育を推進していた大学の影響で、海外へ目を向けることに。とはいえ、当時は全く起業をすることは考えていなかったという。本人曰く、その知的好奇心の旺盛さゆえに「ただ単に様々な価値観の人と生活しながら、世界の文化に自ら溶け込み色々な経験をしたかっただけ」と語る。
その言葉通り、いわゆる海外留学するという形ではなく、海外現地で生活をすることを念頭に入れた活動をはじめる。ベンチャー企業の海外営業担当として働きながら、数カ国への現地営業を経験。当時Webサイトの立ち上げに関わったことで開発に触れ、その実績を元にマレーシアのITスタートアップで働くという切符を手に入れた。更にその後は米国シリコンバレーに飛び、IT専門のリサーチアナリストとして現地での生活を実現する。
言葉が通じない中で、文化の異なる現地で仕事をしながら生活することは並大抵のことではないはずだが、それを好奇心ゆえにやってのけた、というのが石塚さんのポテンシャルの高さを物語っている。その異常なまでの行動力の源泉は「文化圏の異なる様々な地で生活したい」という好奇心だったが、たまたまスタートアップ企業で働くことが多かった運命も相まって、この時の経験が、後の起業の土台を作っていくことになる。
ただ、当時は起業するつもりは全くなく、シリコンバレーから日本に戻っても色々な業界で経験したいという好奇心から、企業を転々としながら働いていた。だが、転職を繰り返す中で、「短期で転職を繰り返すことは悪」という日本固有の価値観に阻まれ、海外で働いてきた石塚さんの価値観とぶつかったことで独立を決意する。
──石塚──
日本での2回目の転職活動で内定を全く貰えなくて、自分が生まれ育った国で働けないっていう現実から、ずっと自分を否定され続けたような気分でした。アイデンティティクライシスって言うんですかね。それが原因で無気力になってしまい、実は一時期全てのやる気がなくなって、その日暮らしのフリーターをしてました。
当時は自分を見つけるために、過去の友人にがんばって会うんですけど、会う人会う人に「仕事何してるの?」って聞かれて、また自分がわからなくなって落ち込んでいく、っていう負のループを繰り返して。
正直フリーターってあまり言いたくなくて、自己を保つのも限界にきてたので、じゃあもうフリーランスになったってことにしよう、みたいな感じで独立して、その後の2018年の夏に1度目の起業をしたんです。だから、1回目の起業経緯が全然かっこよくないんですよね。
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そんな背景で起業をした石塚さんは、キャリアや働き方で悩む人を支援する事業を開始する。
その後は、売上を少しづつ積み上げながら自分を取り戻し、持ち前の好奇心と行動力で着実に事業を伸ばした。そして気づけば、社会課題に対して仮説を立てて様々な事業を創出し続け、複合的に解決する事業会社へと成長させていく。
──石塚──
最初はなんとかして「お金を稼がなければ」という一心で無我夢中で事業を立ち上げました。ただ、事業が落ち着いてくると、お客様と接している中で「この事業ではこの課題は解決できるけど、この課題は解決できない」みたいなことが見えてくるんです。
大学では理工学部だったこともあり、仮説と検証を繰り返して答えを見つけ出す、という思考法が身についていたので、新しく見えてきた課題に対しては仮説と検証を繰り返しながら、色々な事業を立ち上げていきました。
初期の検証時点でダメで正式リリースできなかったものを含めると、3年間で20個以上の事業を作ったと思うのですが、その中でも3つの事業が上手く立ち上がって、市場にフィットしたんです。
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複数事業を展開して、社会課題を様々な方面から解決していく。そんな経営戦略や事業推進をしていくための原体験が、この1度目の起業経験にあるという。
──石塚──
センス抜群の起業家みたいな「類稀な先見性と経験に裏打ちされた能力でストレートに事業を当てる」っていうより「沢山事業を立ち上げて失敗しながらその中で1つ成功を作る」っていうスタイルでやってきました。
自分はコンサル出身みたいなエリートキャリアじゃないですし、最初の起業経緯も生きるための手段で始めてるので、あまり失敗に対するプライドがないんですよね。だから未経験や未知の領域で事業を始めることに抵抗がなくて、色々なことに挑戦できるんだと思います。これまでも大学での研究や海外で生活した経験などを通じて、未知の問題に対するアプローチ、というのはなんとなく自分の中で無意識に構造化してきました。
だから、このスタイルを選択的に身につけたというよりは、このスタイルじゃないと生き残れなかったからこのスタイルに収斂されていった、って感じなんだと思います。
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起業から3年が経過して安定してきたタイミングで、将来的な事業成長に対する資金的な壁にぶち当たる。資金調達をして自分でやり続けるか、資本力のある企業に事業譲渡をするか悩み、最終的には事業運営をバトンタッチすることを決意。
当時あった3つの事業はしっかり安定していたということもあり、スムーズに売却先が決まったという。
石塚さんの事業開発能力やビジネスセンスが伺えるエピソードだが、本人曰く「起業をもっと長距離走でしていきたいと感じることになった原体験だった」という。
この体験があったからこそ「長期的な事業運営と、しっかりした組織づくりをしていきたい」という強烈な意欲が醸成され、2度目の起業へと背中を押した。その意欲を表すかのように、現在は起業からたった半年で約20名のメンバーを抱える会社へと成長している。
──石塚──
アールエンジンの強みは、「組織」であり「人」にあります。創業から約半年ですが、着々と成長が出来ているのも、各メンバーと組織運営の目線が合っているからこそだと思ってます。
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より良い組織づくりをするために、石塚さんがとっている方針とは何なのだろうか。後ほど深掘りするとしよう。
IT業界とSESには、新しい風と根本的な変革が必要

アールエンジンのメイン事業は、意外にもシンプルなSES事業である。IT業界で従事している人たちの働き方を改善したり、業界の非効率な部分を解決していくのであれば、革新的なテクノロジーを使って解決するのかと思いきや違うようだ。
あえて地道にSES事業から開始していくことにした背景には、石塚さんの直感的な仮説が関係している。
──石塚──
IT業界の人たちと話をしていくと、意外にもIT業界のキーマンから、新しくIT企業を創業する人まで、ほぼ全ての人が「IT業界出身者」であることがわかってきたんです。また、ITエンジニアの約70%がSESである、とも言われています。
つまり、IT業界の多くはSES企業であり、SES企業はIT業界出身者が立ち上げるので、業界全体が固定化されています。すると業界に新しい風が吹き込まれることはなく、新しい思想が醸成される機会が生まれない。ここにIT業界の大きな課題があるのではないか、と仮説を立てたんです。
とはいえこういった業界なので、まずはSES事業から始めて、自分自身が業界の一員として働くことで溶け込んでいく、という選択肢が必要だと考えました。
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その後、持ち前の行動力と仮説検証を活かしながら、着々と事業立ち上げを推進していく。一方で走りながら、嬉しい誤算も見えてきたという。
──石塚──
僕は1回目の起業で、B2B SaaSの開発やWebメディアの運営といった、いわゆる「Web業界」でビジネスをしてきました。最初は自分でも意識できてなかったのですが、Web業界とIT業界は似て非なる業界なんです。他業界の人から見るとわかりにくいのですが、ここには明確にスタンスや業界構造の違いがあります。
Web業界は入れ替わりが激しく新進気鋭の企業が業界の中心なので、商習慣よりも効率性を重視し、海外の流行りや最新トレンドをどんどん取り入れて、ナレッジをシェアしていくオープンな環境でビジネスが成立しています。
対してIT業界は歴史ある大手企業が業界の中心なので、効率よりも商習慣を重んじる傾向があり、情報をなるべく隠すクローズドな環境でビジネスが成立しているんです。
Web業界で自分が身につけてきた経営手法や考え方は、IT業界の人から見るとかなり異質だということに気づきました。だからこそ、最初に立てた仮説を自分達が解決していくことは、固定化されているIT業界全体の改善につながっていくはずだと、可能性を感じたのです。
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そこで石塚さんは、「自由正社員」という、「組織運営の仕組み」と「働き方の思想」をセットにしたワークスタイルを作り上げることを決意する。
成果を反映する人事評価制度や効率的な経営手法を駆使した業界トップクラスの「高還元」の制度設計、「高単価で各々にとってベストな案件を獲得」するための営業体制、複数事業を展開することで「キャリアの選択肢の幅を広げる」社内副業制度、石塚さんの経験を活かした「SaaS活用による徹底した社内DXの推進」など、アールエンジン独自の仕組みを組み込んだ組織運営を実現している。
だが、石塚さんが最も強調するのは、目に見える仕組みの方ではなく「働き方の思想」の方を創り上げなくてはならないことだと言う。
──石塚──
アールエンジンのミッションは「私たちの働き方で、IT業界を変えていく。」ですが、つまり私たちが目指しているのは、「新しいワークスタイルの確立と、それによるIT業界の変革」なんです。
世の中の多くのSES企業は、先ほども言ったように昔から変わらない業界慣習のままの企業ばかりです。しかし最近は、マージン率の高い人事制度や、案件が選べる制度を取り入れたりと、少しずつオープンな仕組みを導入するSES企業が増えてきました。
ただこれらは、そのままの意味で仕組みでしかなく、思想や考え方そのものを変えなければ、根本的な変革を達成することは出来ないと考えてます。
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石塚さんの考える「根本的な変革」とはどういうものなのか。ここでもWeb業界出身ならではの、独自の切り口で物事を捉える。
──石塚──
例えばB2B SaaSのようなクラウドソフトは、ツールを導入することで売上があがったり、経費削減が出来たりすることだけが導入価値だと思われています。ですが本質的には、そのSaaSが持っている思想を受け入れて、組織全体をアップデートすることに真の価値があるんです。
だからこそ、IT業界を真の意味で変えていくならば、見てわかる仕組みを取り入れるだけでなく、思想や考え方を根底から変えなければ達成が出来ないと思うんです。そうでなければ、業界にとって本当に価値のある影響は与えられない。
だから僕たちが目指すのは、単なる仕組みを導入した組織運営の方法を確立するだけでなく、思想や考え方をセットにした「ワークスタイル」の確立なんです。
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「自由正社員」という構想を立ててからまだ半年だが、既にベースは確立されつつあるという。現在はまだ小規模だが、メンバー全員が「自由正社員」というワークスタイルを感じながら働いているのだ。
この状態が実現できているのは、働く中に上手く仕組みを組み込んでいるからだと石塚さんは言う。提唱するワークスタイルを自分達で実践しながら作り上げていることも、アールエンジンの組織の強さの源泉なのだ。
他領域の事業展開も積極的に行い、ミッションの達成を複合的に目指す

SES事業を通じて、「自由正社員」というワークスタイルを創り上げることを目標としているアールエンジンだが、「IT業界の変革」の実現も見据え、決してSES事業のみに留まるつもりはない。
既にWebメディア事業やコミュニティ事業を立ち上げており、他にも仕込んでいるというのだから驚きだ。
創業半年程度の企業にも関わらず、どうしてここまで多くの事業創出を行うことができるのだろうか。
──石塚──
創業当初からSES事業の立ち上げがメインミッションのため、IT業界にいるあらゆるレイヤーの人々と日々対話を重ねてきました。
というのもSES事業は、採用から営業まで含め、事業を行うだけで一気通貫でIT業界の全ての人と関わる必要があるからです。ある意味効率化されていない業界なので、他の業界と比べても関わる人の数が断然多い。
過去の事業立ち上げやプロダクト開発などの経験から、市場調査やユーザーインタビューの知見を僕自身が有していたこともあり、対話を重ねていくだけで自然と様々なレイヤー視点での課題がどんどん見えてきました。
このような経緯で、各課題を解決するための事業構想が見えてきた所から、スピード感を持って着手し始めているんです。
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たしかに、IT業界にいる全てのレイヤーの人と関わる機会があれば、事業創出のヒントは多く得られるだろう。最初から達成すべき目標が定まっていれば、そういった観点でヒアリングすることもできるわけで、その気になれば、多くの事業機会を探すことが可能なわけだ。
とはいえ、誰もができるわけでもない。だがアールエンジンは、創業初期にも関わらずそれらを次々と実現させている。仮に同じビジネスを思いついても、事業開発力と実行力との2本柱は、そう簡単に他社にはマネができないだろう。
それらを実現させているアールエンジンの特筆すべきもう1つのユニークな点が、石塚さんが1度目の会社から引き連れてきた事業開発チームだ。
──石塚──
アールエンジンの事業開発チームは、ほぼ全員フリーランスで構成されていて、全員が自身のプロフェッショナル領域を持っているので、控えめに言っても優秀なチームです。
そしてこのチームは、セールスやマーケティングだけでなく、採用、開発、ファイナンス、バックオフィスの整理に至るまで、事業の立ち上げに必要なスキルセットを全て持っています。つまり、自分達だけでワンストップでゼロから事業立ち上げが出来ちゃうんです。
というのも、1度目に起業した会社では、様々な事業を立ち上げては潰してを一緒に繰り返してきたメンバーなので、当然と言えば当然です。
最初から全てのスキルセットを持っていたわけではないのですが、何度も未知の領域にチャレンジしながら、失敗を繰り返してその場その場で学びを得ることで獲得してきました。だから、机上の空論的な知識ではなくて、地に足のついたナレッジを全員が共有して持ってるんです。その蓄積こそが、我々の持つ強みとも言えます。
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専門領域のプロであるフリーランスも、偏見なく自社のチームに組み込む合理性も同社の強みと言えるだろう。こうしたナレッジとリソースを注ぎ、現在SES事業の次に力をいれているのがWebメディア事業。中でも、記事コンテンツを配信している『SES MAGAZINE(SESマガジン)< https://r-engine.jp/ses-magazine >』だ。シンプルなWebメディアのサービスに見えるが、ここでも、石塚さんの将来を見据えた仮説構築が力を発揮する。
──石塚──
『SES MAGAZINE』を企画するにあたり、仮説を2つ立てました。1つ目は、IT業界の中心層であるSESエンジニアの人々は、情報の非対称性がかなりある環境で日々働いているため、各々が持っている情報がかなり限定的である、ということ。
僕たちのようなスタートアップ出身の人間にとっては、オープンソースの技術を利用してナレッジを共有し合ったり、他社の状況を情報収集することは一般的な行為ですが、実はそうでないケース、つまり「まわりの情報を知ることが出来ない」SESエンジニアが多いのでは、と考えたんです。
そして2つ目の仮説が、情報が限定的であるがゆえに「自己肯定感が全く上がらない」ということです。情報がクローズドな業界だと、自分で情報収集するなら自然とGoogleやSNSで検索することになりますが、「SES」を検索ワードに入れてググると、上がってくるのはネガティブな情報ばかり。
こんな状況では、自分達の仕事に自信を持つことが難しくなりますし、どうしても自己肯定感が下がってしまう。そうなるとメイン層のSESエンジニアがアクティブになれず、それがゆえにIT業界全体が停滞してしまってる原因になっているのでは、と考えました。
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そして、立てた仮説を推測のままにしないスピード感もアールエンジンの強みだ。小さな仮説の検証を自分たちで行うことで、更に仮説の練度を高めるサイクルを回す。
──石塚──
これらの2つの仮説は、まさに当たっていました。採用活動を通して多くのSESエンジニアと話していくと、各々が持っている情報量がかなり少なく、かつ自分の仕事に自信を持っている人が少なかった。
これは、自社でSES事業をやるだけでは手の届かない「アールエンジンで働いてない人」に対して、質の良い手触り感のある情報を届けることが出来れば、IT業界全体を変えることに繋がる大きな一歩になるはずだ、と確信しました。
また、既存のSES事業や今仕込んでる新規事業ともシナジーが見込めるため、ビジネスの機会も豊富にあります。
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『SES MAGAZINE』で価値のある情報を届けることで、自社で働いていない人にも影響を与えていく。そしていずれはWebメディア事業を、自社の各事業のハブ機能として成長させていく戦略だ。すでに複数事業での経営体制を整えるためのベースを、早くも整えつつあるのだ。
このように今後さらに増えていくであろうリーチ機会と、アールエンジン独自の組織力とにより事業をドライブさせる。だがそれだけではない。領域を超えた事業にもどんどん進出していくと強調する。戦略的な事業開発を次々と進めていくことを、石塚さんはひたすらに描き続けている。
──石塚──
既に、人事・採用支援事業や、M&A事業などの立ち上げにも動いております。実はこれらも全て、メインのSES事業の拡大や、「自由正社員」というワークスタイルを創り上げるための布石にすぎません。
「自由正社員」として働く人数が増えるということは、このワークスタイルがSESエンジニアに受け入れてもらえるくらい価値のあるものになっている、ということに繋がっているのだと考えています。
結局のところ、複数事業を展開するのも「新しいワークスタイルの確立と、それによるIT業界の変革」をするための手段でしかない。ようは「何をするのか?」にはあまりこだわってません。大事なのは、ミッションの達成だからです。
だからこそアールエンジンでは、IT企業で一般的な事業展開である「受託」や「自社開発」のような事業に限定せず、ミッションを達成するために必要だと思われる事業を、領域関係なく進めていくんです。
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社内ルールと社内業務を最低限にする、シンプルな組織運営

あくまでも、ミッションの達成にこだわる石塚さん。事業や組織に対する思いも強いのだが、「自由正社員」の価値を高めることについても常に強く意識しているようだ。「自由正社員」としての働き方の自由度を高めるために、「社内ルールと社内業務を最低限にする組織運営」という無駄を最大限はぶく方針についても繰り返し強調されている。
これはなにも、合理的でコミュニケーションの薄い「冷たい組織環境」をつくっていく、という意味ではない。「ルールをシンプルに保ち、無駄な時間を最大限減らす」ということだ。それが、時間的な自由度と思考の多様性をあげることに繋がるという。
その理由や背景をもう少し深く聞きたいと問うと、組織論の観点でこう語ってくれた。
──石塚──
基本的には会社方針として、社内ルールは最低限にするよう努めてます。いま存在しているルールも、社員の評価に直接関連するようなものしかなく、更に「数字で表せること」と「客観的に誰が見ても理解できる事」しかありません。つまり、主観で判断が変わってしまうようなルールは、一切設けていないんです。もちろん定性的な情報が必要なこともありますが、新しいルールを検討する際も、この基本方針を重要視しています。
だから例えば採用の際も、「仲良しカルチャー〜」「風通しの良い環境〜」「気持ちに寄り添う温もり〜」みたいな、エモさ重視の定性的なカルチャー訴求をしていません。
というのも、アールエンジンの創りあげたいワークスタイルである「自由正社員」は、考え方の多様性を許容するために、定性的なことよりも、定量的で客観的な事実に即して判断するためのルールと、それを守ることが重要だからなんです。
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ここでも、グローバルで経験してきた石塚さんの独自の考えで切り出していく。
──石塚──
客観的な事実を元にした方針がない状態で多様さを許容すると、組織がひとつにまとまりません。どういうことかと言うと、日本企業でありがちな定性的な考え方をベースにしたカルチャーで組織をまとめようとすると、考え方が多様すぎてカルチャーがみんな合わない、という矛盾が生じてしまいます。
そのため、思考の多様性を許容した上で組織をひとつにまとめるには、数字や客観的事実に基づいて組織をマネジメントするしかないんです。
これは、異なる文化背景の多民族が共生しているマレーシアやアメリカでは当たり前の考え方になっていて、宗教観も文化背景も違う人同士のカルチャーが100%マッチすることは絶対にないので、ほとんどの企業では客観的な事実と数字をベースに組織マネジメントをしています。
つまり、数字で表せることと客観的な事実に比重を置くのが好きとか嫌いとかではなく、そもそも自由や思考の多様性を許容するためには、そういう組織方針にするしかないんです。
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「自由正社員」というワークスタイルを創るために、創業初期から幅広い年齢層の様々な背景のメンバーを採用しているアールエンジンならではの考え方かもしれない。確かに多様な考え方を許容するためには、共通理解できる方針に基づいて組織マネジメントをするのは理に叶っているだろう。
もちろん組織も急速に成長を遂げていくわけだから、方針を浸透させるのも簡単ではないはずだが、コミュニケーションと仕組みでその問題に取り組む姿勢を崩さない。
──石塚──
こんなことを言ってきてなんですが、僕はどちらかというと、最後は直感とか気持ちを大事にするタイプなんですよね。だからこそ、判断基準のルールとしては、「数字や客観的事実が大事」ってことが良くわかってるんです。
数字や客観的事実を基準にしたルールにすることで、自然とルールがシンプルになります。そしてルールがシンプルだからこそ、余裕を持ったコミュニケーションが取れるようになるんです。
やっぱりこういう時代ですし、SESという事業だからこそ、雑談ちっくな会話をしながら目線を合わせていくことも必要だと思ってます。
更にいうと、「自由正社員」として働き方を言葉で伝えることも大事ですが、実際に動く中で気づけば身になる仕組みになっている、ってことも大事にしています。
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このように、組織づくりにワークスタイルを上手く設計して組み込んでいるのが、同社のユニークな点でもある。その秘訣はとはなんなのか。
──石塚──
人事評価のような、一歩間違えれば抽象的なものになりがちな制度こそ、数値化と客観的事実を重視した設計になるようにしています。
例えばアールエンジンのSES事業では、エンジニアも含めて各メンバー全員が自分の毎月の単価(売上)をリアルタイムで確認でき、その数字によって給与や賞与が日々変動していくことが常に確認できます。そして、自分の給与の算出根拠になっている評価ポイントは、全てお客様の客観的な評価や、お客様から貰える売上に依存しています。
「数字や客観的事実に即して判断する文化」を根付かせるためには、このように人事評価ですら、方針に従って設計することが重要だと考えています。
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その他にも、組織方針としていることはたくさんあるという。 無駄な社内作業を作らない、出社義務なし、テキスト&オンラインコミュニケーション推奨、マイクロマネジメントはしない、最終的にはメンバーの判断に任せる、社内政治は発生させない。
これだけ見ると、まるで外資系企業のような集団である。だが、ドライで冷たい組織文化では決してない、ということを石塚さんは再度強調する。
──石塚──
海外や過去の起業の経験を踏まえて言えるのは、社内で良好な人間関係をつくっていくなら、しっかりと組織のルールを決めるのが大事ということです。
逆にいうと、線引きやルールが曖昧になると、リスペクトやデリカシーが消えてしまう。お互いの価値観や考え方を尊重するためには、踏み込んではいけない領域を設定することも大事なんです。
むしろ、そこの線引きが担保されているからこそ、自己開示がしやすくなるので、良好な関係を築くことができるんです。だから例えば、みんな一般的には言いにくいような意見を相互に言いあえたり、雑談でお互いの趣味の話をしたり、プライベートの相談も気兼ねなく出来る。
「長期的な事業運営としっかりした組織づくりをしていきたい」と先ほど言いましたが、まさに、こういう観点で理想の組織をつくっていきたいと考えています。
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SESという事業の性質から、各々が仕事に集中しやすい環境をつくることが第一優先になる。とはいえ、社内への意識が向かいにくい状況の解決策として、マイクロマネジメントで管理することはしない。思想やルールを共有したり、仕組みを日々の業務に組み込むことで、適切な距離感で温かみのある繋がりをつくっているわけだ。それを、石塚さんは意図的につくり上げていこうと、自ら推進してもいることが伺える。
「まずは自分と周りの人の幸せを第一優先で良い」「カルチャーマッチは必要ない」という、個を尊重する採用方針

ここまでの話を聞くと、よほど結果を出せて、組織のために貢献できるような人間でなければ働けないのではないか、という不安も生まれるかもしれない。だが、意外にも石塚さんは、それよりも人間性を重視しているという。特に「まずは自分と周りの人の幸せを第一優先で良い」とのことだが、これまで繰り返し話してきた「数字や客観的事実に即して判断する考え方」と矛盾しないのだろうか。
──石塚──
ここは1番大事なのですが、「自由正社員」というワークスタイルは、プライベートも尊重している思想です。むしろ「自由正社員」として働く価値は、「自由正社員」として働いていない「プライベートの時間が自由になる」ことにもあると考えてます。
実は充実感や幸福感というのは、100%主観で決定されるということが科学的に証明されているんです。つまり、組織内では客観的で数字に即したルールを設けていますが、逆にいうとそれ以外に関しては、最大限個人の主観に従って生きてほしいと思ってるんです。
主観を最も尊重するからこそ、組織として社内で守るべきルールに関しては、客観的なものだけにして且つ最低限に抑えてる、とも言えます。
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このように「自由正社員」は、ルール内とルール外を分けて考えることで、一本の線で繋がるワークスタイルなのだ。独自のカルチャー観に関して、更にこう付け加える。
──石塚──
先ほども話ましたが、評価基準はお客様から貰える単価や評価がすべてなので、逆に言えば、それ以外の仕事における行動も全て本人の自由、と言っても過言ではありません。
考え方、価値観、将来像、目標、仕事スタンス、生きるスタンスなど、組織や社会に悪影響を与えるものでなければ、基本的に全て許容します。
むしろ僕はカルチャーアドという「色々な価値観や考え方が組織にプラスされていく」というのが大事だと思っているので、「価値観や考え方が同じである」というカルチャーマッチは必要ないと考えてます。
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求める人材の要件も、石塚さんが求めるのは明確でシンプルだ。「自分の理想を素で話せる人」と即答する。
──石塚──
理想の大小も関係ないです。「こんなことが出来るようになりたい」「これくらい年収が欲しい」「こんなチャレンジがしてみたい」という明確な目標がある人も良いですし「家族のためにプライベートを確保したい」「趣味に使える分のお金を稼ぎたい」「いつかはあまり働かなくていい状態を作りたい」「低燃費で最大限年収を上げたい」という、一見控えめに見える理想も尊重します。
転職する時って、社会課題を解決したいとか、こんな技術者になりたいとか、様々な建前的な理由をよく聞きますが、アールエンジンが求めている人材、そして「自由正社員」として働いていけるであろう人は、自分の理想を素で話せる人、だと考えてます。
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この要件には、採用という観点において、最も重要で本質的な理由も内包されている。
──石塚──
理想を素で話すのって恥ずかしいと思うのですが、会社からするとそれがわからない状態で採用するのって非常にリスクが高いんです。ここが最も入社後のミスマッチに繋がる原因になります。逆に言えば、「自由正社員」はあらゆる多様な考え方を尊重するので、自分の理想を素で話してくれればそれでいいんです。
その上で、じゃあ働くスタンスが合ってるかどうかとか、そのルールの中で働きたいかどうかとか、この環境をチャンスだと思ってくれるかどうかとか、それを決めるのは会社側じゃなくて応募者ですよね。だから基本的に、自分の理想を素で話せる人なら、「自由正社員」としてアールエンジンで働くことが出来るんじゃないかなと思ってます。
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では既に働いている人は、どのような人が多いのか。
──石塚──
それ、よく聞かれるんですけど、色々な人がいるとしか言いようがないんです。出身は専門卒や大卒関係なく、第二新卒や元フリーランスなど幅広いバックグラウンドの人、ご家族やお子様がいらっしゃる方も多く入社していますし、20代前半から40代まで幅広い年齢の人が働いていますから、いろんな人がいるとしか言いようがなくて。
ただ1つ共通点を挙げるなら「最低限のルールを守れる人」かもしれません。「自由正社員」として働く上での社内ルールは少ないですが、先ほども言ったように最低限のルールはあります。組織である以上、1人がルール違反をするだけで全体に損害が起こってしまいます。これは避けなければなりません。
今いる人は全員、自分の理想を素で話せて、最低限の組織ルールを守れる方ですね。
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そして「自由正社員」のもう1つユニークな点は、成長意欲やチャレンジ精神が強くなくても許容する、という点だ。ここまで自由であることを許容する価値観は成長企業としては珍しいと感じるが、これも石塚さん独自の思想に起因している。
──石塚──
世の中の全員が全員、闘志に燃えてたり、成長意欲が剥き出しになってたりするわけじゃないと思うんです。逆にそれを強要してしまったら、それはもう自由ではなくなってしまう。
僕は、相田みつをさんを尊敬しているんですが、それは「幸せは主観が決める」ということを教えてくれた心の恩師だからです。「そこそこ」や「ほどほど」を目指したい人もいるし、それもいいじゃないですか。
ステップアップやチャレンジの機会は社内に沢山ありますが、それは拾っても拾わなくても構わない、といつもメンバーに話しています。そんなことよりも、企業と従業員、従業員同士がルールの元に対等であることが一番大事で、そのスタンスを理解できていれば問題ないですね。
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今後SES事業の成長と共に組織拡大を続けつつ、様々な領域へ事業展開も進める中で、「まだ色々と創っている最中なので、メンバーが自分の理想や意見を組織に反映しやすいフェーズ」だと語る石塚さん。たしかに、「自分の理想を叶えたい」と願う人にとっては、環境として面白いだろう。
アールエンジンも石塚さんも、良くも悪くも若い。だが、ミッションへの想い、事業戦略、組織へのこだわり、そして「自由正社員」というIT業界の中では異彩を放つフラットな考え方。こうした明確なポジショニングが、顧客からの信頼や社内メンバーの一体感、そして周りの人から期待や応援を集める要因となっている。
取材時の石塚さんは、最初から最後まで何とも楽しそうに語るその姿から、本心で話していることをひしひしと感じるようなコミュニケーションだった。
ミッションが実現した未来や事業戦略の話をする時はもちろんだが、特に自社のメンバーや組織に関する話をする際は毎回嬉しそうで、心の底から社員をリスペクトをしているんだろうと感じずにはいられなかった。きっと相対する顧客や求人応募者にも、同じ気持ちを抱かせているのだろう。
市場拡大するDX、そしてそれに連動するように増え続けるSES企業の中でも、特にユニークな企業・起業家として、今後のアールエンジンの拡大と石塚さんにOnlyStoryも注目していきたい。
会社名: 株式会社アールエンジン
URL: https://r-engine.jp/